序章 ネズミのおやこ
「ただいまー、ぼうやたち」
ネズミのお母さんが、お家にかえって来ました。
手にいっぱい、おいしそうなケーキのクズをかかえています。
「すぐに、ごはんに、しましょうねー」
…おくのへやに、よびかけましたが、へんじがありません。
なにか、さわいでいる声が、聞こえます。
「だからさー、あの、まっくろい色がいやなんだよ」
「きもちわるいよねー」
「目つきも、わるいしさー」
子ネズミ三きょうだいたちが、こうふんして、しゃべっています。
「これこれ、どうしたの? なにをそんなに、さわいでいるの?」
お母さんが、へやにはいって来ました。
「お母さん、ボクたち、カラスが大っきらいなの」
「ガラがわるくて、らんぼうなんだよ」
「あんなやつ、いなくなれば、いいのに!」
「どうして、カラスさんを、そんなに、きらうの?」
子ネズミたちが、森であそんでいると、カラスにおそわれたというのです。
でも、よくよく話を聞くと、おそわれたというより、子ガラスのいる巣に、ちかづいたため、おっぱらわれたようなのですが。とにかく、子ネズミたちは、それが気にくわなくて、カラスのわるぐちを、いいまくっているようです。
「まっくろい色が、ぶきみなんだよ!」
「しにがみ、みたいだ!」
「声も、きたないしね」
子ネズミたちは、またも、こうふんして、まくしたてました。
「ちょっと、まって」
お母さんは、子ネズミたちをなだめながら、いいました。
「そんなふうに、人をきめつけて見ては、いけないとおもうんだけど…」
子ネズミたちは、ポカンと口をあけて、お母さんを見ていました。お母さんは、なにをいいだすのだろう、とおもったのです。
「カラスさんの色が、くろいのも、ああいう声なのも、それは生まれつきのことでしょ。カラスさんは、なにも、わるくないわよね。
そもそも、どうして、色がくろいと、いけないのかしら?」
お母さんが、たずねると、
「だって、かんじわるいじゃない」
「みんなも、そういってるよ!」
と、子ネズミたちが、すかさず、こたえました。
「くろい色が、どうしてかんじわるいの? みんなって、だれとだれが、いってるの?」
そう、お母さんにいわれて、子ネズミたちは、モゴモゴしていましたが、やがて、だまってしまいました。
「くろは、あんたたちが大すきな、チョコレートの色だわ。あんたたちを、かわいがって、いつもおいしいクッキーをくれる、おとなりの人間のおじょうさんの、かみの毛もくろいわ。おじょうさんが、音楽をかなでるピアノは、ピカピカくろく光っているじゃない。それはいいの?カラスさんの、くろだけが、いやな色なの?」
お母さんは、かなしそうな顔をしています。
そして、子ネズミたちをだきよせると、
「こんな、お話があるのよ」と話しだしました。
つづく